昭和5年、山頭火さんは、宮崎県の油津町にいます。日南辺りを旅しています。
天気は日記によると晴れ。そんな日の一句です。
旅は気軽い朝から唄つてゐる
なにを唄っているんでしょうか。
なにを歌っているにしても、ご機嫌さんですね。
昭和5年だと、宝塚歌劇団『すみれの花咲く頃』とか、『祇園小唄』などが発表された年です。
私、どっちも、知ってます、出だしだけならどちらも、ちょっと歌えます。
名曲ってそういうものですね、きっと。
山頭火さんが、すみれの花咲く頃を、鼻歌で口ずさみながら歩いている。
想像すると、ちょっと面白いです。
鼻歌で思い出した記憶があります。
昔、オートバイで旅をしていた頃の話です。
雨の中、海沿いの道を、バイクで走っていました。
雨足がどんどん強くなります。
ヘルメットのシールドをぬぐっても、ぬぐっても、前が見えなくなってきました。
シールドの内側も自分の息で曇ってきます。
地名もわからないまま、通りがかりにあった宿に、急遽、飛び込みました。
夜も遅く、食事は提供できないとのことでしたが、泊まることにしました。
とりあえず、荷物を解き、熱いシャワーで温まりました。
近くに食事ができる店がないか、宿の人に聞いたのですが、近くに食堂などは無いとのことです。
今のように、どこにでもコンビニがある時代ではありません。
ただ、少し先に、スナックがあって、簡単な食事ぐらいは出すとの話です。
宿で傘を借り、さらに強まる雨の中、足元をびしょびしょにしながら、教えられた方角へ向かいました。
店はすぐ見つかりました。
ドアを開けた時、女主人の鼻歌が聞こえてきました。
それは、今まで聴いた中で、一番悲しい鼻歌でした。
山頭火さんの、晴れた空の下で口ずさむ、呑気な鼻歌の真逆です。
歌は上手に歌えば歌うほど、感情が伝わると思いがちですが、実は、鼻歌の方が感情が自然にのりやすく、感情がはっきり伝わると思っています。
もう少し、書きたいこともあるのですが、長くなってしまいました。
続きは、また機会があれば。
耳に残っていますか、そうですか。
その声は、どこから響いてきますか。
過去からですか、未来からですか、どちらもちがいますか。
そうですか。