こんにちは。10数年ぶりに『リング』を見たら、さほど怖さを感じませんでした。横道それ夫です。
例によって積みゲー消化レビュー記事となります。今回プレイしたタイトルは『死印』です。
シナリオのネタバレはありませんので未プレイでも安心してお読みいただけます。
なお本作の作風上、記事や引用する動画・リンク等に少々グロテスクな表現が含まれます。予めご了承ください。
『死印』作品概要
そのまま「しいん」と読みます。
『円卓の生徒』『デモンゲイズ』『剣の街の異邦人』など、「3DダンジョンRPG」と呼ばれるジャンルの作品を多く世に出しているエクスペリエンスというメーカーが制作した「ホラーADV」作品です。
2017年にPlaystationVita用ソフトとして発売され、2021年現在はそれに追加要素を加えたアップグレード版がPlaystation4、XBOXONE、NintendoSwitch、Steamでも購入可能です。なお、どのプラットフォームでも定期的にセール販売されていますが、通常価格は「廉価版」扱いのPS4とスイッチが一回り安いです。
東京都H市、この郊外都市に最近奇妙な噂話が広がっていた。
“シルシ”を持つ者は死ぬ──
突如体にまるで噛まれたような痣 “シルシ” が刻まれ、
原因不明の死を遂げるというものだ。事実この町では、人が謎の不審死を遂げる
怪奇事件が発生していた。
この事件は都市伝説的に、どこかで幽霊に遭遇したせいだ、
知らぬ間に呪いに祟られるようなことをした、
などと様々な憶測を元に広まっていった。記憶を失ったあなたは、“シルシ” を持つ者を保護するという洋館の前にいた。
何かに引き寄せられるように洋館の扉を開くと、そこで美しい人形に出会う。「ようこそ、九条館へ──」
続けて人形は語る。
「このままでは、あなたは死にます」
「ただ、助かる方法がない訳ではない」“死” へのカウントダウンはすでに始まっていた…
死印 Story | EXPERIENCE
ジャンルは「ホラーADV」とありますが、オーソドックスなテキスト式…ではなく、3Dダンジョン風の移動・探索&戦闘システムも混在する、ひとことでは表現できない複雑なジャンルです。
これは本作が生まれる過程の紆余曲折の名残りのようです。
じつは『死印』自体の企画は二転三転しておりまして、最初はアドベンチャーではなかったんですよ。新規ユーザーさんを……と思いながらも、当然エクスペリエンスと言えばダンジョンRPGを期待される方も多いでしょうから、当初は既存のユーザーさんも楽しめつつ、新規の方にも訴求できる異なるジャンルを……という、欲張りなことを考えていました。そんなわけで、最初は微妙にRPGチックで、戦闘とキャラメイクにハクスラ要素が盛り込まれていました。
エクスペリエンスがあえてアドベンチャーの『死印』に取り組む理由とは? 千頭氏&安宅氏にダンジョンRPGの名手によるさらなる挑戦を聞く | ファミ通.COM
作品評価
いいところ
CERO:Dの限界突破なビジュアルが凄い!
「切断された四肢」や「ドリルで穴を開けられた死体」など、CERO:Z(18歳以上のみ対象)じゃないのが不思議なくらい攻めたビジュアルが多いです。
さらに、作中では「怪異」と呼ばれる存在と相対することになるのですが、それらも見る人間に凄まじい不安感と不快感と嫌悪感を与える絶妙なデザインとなっています。
なのに、どことなく「絵画的な美しさ」も感じるのは…なんなんでしょうね。
怪異の「絶対この世に存在してはいけない」感をビジュアルに落とし込んでいるデザイナーさん、凄すぎです。
あと、あまり重要な点ではないと思いますが、少しエロティックなビジュアルもあります。
事件解決に向けた試行錯誤の妙
作品概要でも書きましたが、本作は一般的なテキストを読み進めるタイプの作品ではなく、3Dダンジョン風の探索要素も兼ね備えています。
この探索中には多くのアイテムや情報が手に入ります。それらはすべて事件解決のキーとなり得るのですが、一見すると意味不明なものも多くあります。
それが「いつ」「どこで」「なぜ」重要なのかを考えながら進めて行かなければならないので、割と一筋縄ではいきません。
とはいえ、ヒントは登場人物の会話やイベント、事件の成り立ちから十分推測できるものなので、理不尽なものは殆どなく、いいバランスだと思います。
必然的に手間は増えるのですが、「読むだけゲー」になりがちなこの手の作品を面白く料理しているなぁと感じました。
ちょっとダメなところ
ボリューム不足
シナリオは章仕立てになっており、全6章あります。(Vita版は全5章+DLCという形)
しかし、各章のボリュームは約1~2時間程度なので、半日もあればほぼコンプリートできてしまいます。しかもプレイの大半は探索パートなので、実質的なテキストボリュームで行くと滅茶苦茶少ないです。
各章とも結末の一部が変わる程度の分岐しかないこともボリューム不足に拍車をかけます。
たぶんテキストのみだと全6章通しても1時間くらいで読めるのではなかろうか、と思います。
即死の選択肢は緊張感?理不尽?
本作の売りのひとつに、生死を分かつ選択肢「デッドリーチョイス」というものがあります。
「霊魂」という数値をカウントダウンさせながら選択を迫ってくるという緊張感のあるものなのですが、個人的にはイマイチでした。
正解したら物語が進行、間違ったら即ゲームオーバーという点は分かりやすくはあるのですが、「あの選択は正しかったのだろうか?」というシナリオの分岐のドキドキ感を放棄しているような印象を受けました。
選択肢の内容も、そこまでに獲得した情報をきちんと把握できているかのテストみたいなものなので、感覚としては完全に「ここで問題です!」です。
システムのチグハグさと不親切さ
本作はもともと3DダンジョンRPGとホラーADVの融合を目指した作品だったため、その名残が随所に残っています。
しかし、最終的にADV寄りに調整をした(と思われる)ために、調整不足のRPG要素の残滓にストレスを感じさせられます。
特にストレスを感じたのが「探索パート」における移動です。
基本的な3DダンジョンRPGであれば、移動と合わせて方向転換も行えるのですが、本作では方向転換がなく、移動のみとなっています。
常に「向かって〇〇」が基準になっているのですが、その「向かって」がゲーム側で固定されています。テキスト的は「前進」なのですが、操作的には「後退」だったりします。
言葉で伝わりにくいかもしれませんが、結果的に何が起きるかというと「いやいや、行きたいのはそっちじゃねぇよ」です。
また、フィールドも3Dマップではなく一枚絵のつなぎ合わせなので、一歩進むごとに画面の暗転が入ります。このテンポの悪さに先述の操作ミスの起こりやすさも重なり、恐怖を退屈が相殺してしまう有様です。
他にも、
- セーブできるタイミングがADVというよりRPG的
- 既読スキップがない、テキスト表示速度の変更といったコンフィグがない
- まったく意味のない各キャラクターのステータス表示
といった、制作時の迷走を感じさせる、実際のゲーム性に対してチグハグな仕様が散見されます。
総評
凄まじいまでの生理的嫌悪感を体験できる圧倒的ビジュアル(誉め言葉)は他のホラーADVの追随を許さないレベルで、デザイナーの方の表現力には脱帽です。
ただ、システム部分のチグハグさでゲームとしての快適さが損なわれているのが非常にもったいないですね。
グロ耐性高めの方には結構オススメしたいところですが、ボリューム不足も気になるところ…。
「セールで見かけたら購入してみてはいかがでしょう」くらいの推し方ですかね。
今日もふらとぴにお越しいただきありがとうございます。ではまた!
シリーズ最新作『死嚙』(シニガミ)も来年発売予定です!