梅雨の晴れ間ですかね。
日記には『晴、草取デー。』とあります。
昭和八年、すでに〇〇デーみたいな言い方をしていたんですね。
なんか、戦後の言葉っぽいですけど。
山頭火さんの日記を読んでいると、時々こうした発見に出くわします。
随分と昔の話のようであり、案外今と変わらなかったり。
たれかこいこい螢がとびます
今、街中に暮らしていると、蛍を見ることは、まずありませんね。
私も、随分長い間見ていないです。
そのせいか、最後に見た蛍のことを憶えています。
日本の南の方、ある島に旅をした時です。
宿の庭に面した、掃きだし窓の外に、小さな数個の光ががふわふわと漂っていました。
少し季節外れだったのと、南の島と蛍がうまく結びつかなかったせいで、見えているのに、頭がうまく反応しませんでした。
しばらくして、やっと蛍だと気づきます。
横で眠る人を起こさないよう、そっと暗い庭に出ました。
私の気配に気づいたのか、ただ風に運ばれたのか。
近づく間もなく、小さな光は、すーっと夜の中に消えていきます。
見えなくなってからも、残像が残っているのか、しばらく見えているような気がして、夜を見つめていました。
次の朝、昨夜の蛍のことを話すと、一緒に観たかったそうで、ふくれられてしまいました。
もう帰る日だったので。
昨夜は数匹だけだったし、次の蛍の季節に、たくさんの蛍が飛び交うような、名所的なところに旅をする約束をして、なだめました。
私が蛍を最後に見たのは、この時の南の島です。
蛍の飛び交う光、山頭火さんも、誰かと一緒に観たかったんでしょうね。
懲りずに、ちょっといい感じに書こうとしましたが、庭では、蚊にかまれて痒いし、宿の人に、夜は蛇に気をつけて、と言われたことを思い出して、慌てて部屋にもどったんですけどね。
瞳に映っていたのは何ですか。
小さな小さな光ですか。そうですか。
小さな淡い影を作っていましたか。そうですか。