こんにちは。東京に住んだことはない男、チョッピーです。
上京のようで上京でない少し上京な生活
2008年4月、僕は大学を卒業し、関東を中心にビジネスを展開している会社に就職した。最初に配属になった部署のオフィス所在地は横浜。僕はそれまでの人生の全てを過ごした(と言っても所詮は22年程度だけれど)大分県別府市の実家に別れを告げ、横浜市にあるその会社の社員寮に引っ越した。
当時はリモートワークなんて概念は無かったので、オフィスが横浜にあるのであればそこに引っ越すのが当たり前だったのです。
その会社に入社を決めた理由はいくつかある。そのうちのひとつは「関東を中心にビジネスを展開していたから」だ。就活時に「せっかく日本に生まれたのだから、東京を知らずに人生を終えたくない」と考えたわけだ。
実際に配属された場所は東京ではなく横浜だったのだが、当時の僕はそこでの生活を「東京で暮らしている」と感じていた。もちろん横浜は東京とは歴史も文化も異なる都市である。だが、そこから遠く離れた辺境の地で育った身としては、横浜は「東京という異世界」に含まれる土地であったのだ。事実、横浜は首都圏や東京圏と呼ばれる区域には含まれるので許してほしい。
僕は少なくとも気持ちの上では就活時の願いを叶え「上京」したのだ。
その後、僕は転勤や出張や短期留学により大阪・名古屋・上海・大連などの「東京ではない場所での生活」をする事となり、思い描いていた社会人生活とは違う人生を歩み始めるのですが…それはまた別の話。
上京をテーマにした歌が好き
上に書いた個人的な経験が影響しているのかどうなのか、理由は定かではないが僕は上京をテーマにした歌が好きである。今日はそれらを何曲か僕の感想付きで紹介してみたいと思う。
ただ、ここで紹介するのはどれも非常に有名な歌ばかり。今更、僕に紹介されなくても、すでに皆様もご存じのモノが多いとは思う。「この曲を聞いて、そんな感想を抱く人もいるのね」と楽しんで頂ければ幸いだ。
遠く遠く / 槇原敬之
最初にご紹介するのは名曲中の名曲、槇原敬之の『遠く遠く』。
故郷に錦を飾るまでは帰れない方の歌ですね。上京の決意と、そこでぶつかった困難に立ち向かう気持ちが歌われているように思えます。
歌詞中に『外苑の桜は咲き乱れ』とあります。おそらく主人公は4月に入学か入社で地方から東京に出てきた方なのでしょう。
「外苑」は厳密には「神社の外にある付属の庭園」を指す言葉であり東京の特定の場所を指す言葉ではありませんが、まぁ、素直に読めば「皇居外苑」か「明治神宮外苑」のどちらかを指しているのだと思われます。歌詞に『新幹線のホームに舞った 見えない花吹雪思い出す』とあるので東京駅に近い皇居外苑の方を指しているのかもしれません。
個人的に僕がこの歌で注目すべきポイントは「歌の主人公は故郷に帰る場所がある」と考えているように思える点です。事実はどうであれ、主人公は「東京で輝ければ地元にも届く」と考えています。
その根拠は『「元気かどうかしんぱいです。」と 手紙をくれるみんな』の存在と『いつでも帰ってくればいいと 真夜中の公衆電話で』言ってくれる誰か。(後者は親族かな?)
この歌の主人公にとって東京での生活は決して楽しいだけのモノではないのでしょう。それでも『見えない花吹雪』に包まれた日の事を思い出しながら『ふるさと』に『僕のことがわかるように 力いっぱい 輝ける日を この街で迎えたい』と頑張っている。だから曲調や歌い方も哀愁を感じさせつつも決意や楽しさを感じさせるモノになっているのでしょうね。
最高。故郷とは違う場所で頑張っている人に勇気を与えてくれる名曲だと思います。
東京の夕焼け / back number
2番目に紹介するのは back number の隠れた名曲『東京の夕焼け』。彼らの5thアルバム『シャンデリア』に収録されているアルバム曲です。
本当はYouTube等でフルで聴ける音源を貼り付けたいのですが、公式が提供していないようなので amazon music のサンプルを貼り付けています。
こちらの歌では「東京に対する『田舎者』の憧れと反骨心」が歌われているように思えます。上に紹介した「遠く遠く」よりもかなり自意識が強くて若干、屈折しているように思える。でも、僕にはその気持ちがスゴくわかるんですよね。
自分も仮にも田舎で暮らしてきた自負がある。東京が全面的に素晴らしいと称賛するのはアイデンティティの否定のようで悔しい。実際、東京なんて『新しくあるためにみんな変わってく』ような情緒のない街だ。『本当は真似してるだけなのに』。でも『東京の夕焼けは少しだけ窮屈そうだけど 思っていたよりもずっと 綺麗なオレンジ色』でもある。
そんな屈折した気持ちを抱えながら『涙が溢れてどうにもならない 夜にも出会う』けれど『アイツ田舎者だって馬鹿にされ』ないように『見上げないように 人にぶつからないように ゆっくり歩きだ』すのです。だって、主人公は『これから見つける全てが 僕の中で光りますように』という想いを胸に秘め、すでに東京で生活しているのだから。
こんなの共感するしかない! 田舎者の東京に対する憧れと反骨心が極めて正確に描写されている! 最高です!
憧れと反骨心がない人はそもそも上京しませんからね、たぶん。
ちなみに僕のイメージとしては歌の冒頭で現れる『さぁ 改札を出たらもうそこは夢の街』は確実に新宿です。駅の西口にオフィス街が広がり、東口に椎名林檎が『大遊戯場』と歌った歓楽街歌舞伎町が広がる、まさに『夢の街 という名の欲望と誘惑の街』と歌われるに相応しい場所。
しかし東京と言えば駅と電車…という田舎者のイメージを冒頭に持ってくるあたり流石だなぁ。いきなり曲の世界観に引き込まれます、僕は。
東京駅も丸の内・大手町方面はオフィス街で、八重洲方面は歓楽街…という新宿駅と同じ特徴はありますが『夢の街 という名の欲望と誘惑の街』と言えば新宿でしょ、やっぱり。え、五反田・鶯谷・上野? いや、その辺りの街は少し違う。恵比寿や渋谷も違う。そうじゃないんだ。六本木は…もしかしたら少し近いかもしれない。
Laughter / Official髭男dism
3曲目はOffical髭男dismの『Laughter』です。この歌は今まで紹介した2曲と違って直接的に上京を歌っているわけではありません。でも、この歌を作詞されている藤原さん自身が
歌詞は上京する前のことを書いたわけですよ
新曲「Laughter」についての授業(前編) | SCHOOL OF LOCK! | ヒゲダン LOCKS!
と語っているのですよね。なので、この歌は上京の歌なのです。少なくとも僕の中では。
この歌は僕の中では「上京に伴う喪失の痛みと、足を引っ張る常識と、それらを振り払う勇気の歌」です。
そう、上京って多かれ少なかれ、地方出身者にとっては「闘い」という側面があるのです。だって、そこで成功する保証なんてないですからね。基本的には地縁も人脈も土地勘も無い。
地縁も人脈も土地勘もある地元という場所を捨て、何もわからない中で裸一貫で戦い続けなければならない。普通に考えたら狂気の選択です。
そりゃあ『現実は見えますか? 保証は出来ますか?』と言われますよ。それに対しては『YesもNoも言えずに答えに詰ま』るしかない。だって、本人だってそんなのわからないのだから。
でも『自分にとっての正しさを 創造してみる』ためには、『いつでも今を誇れる人で在』るためには、『鉄格子みたいな街を抜け出す』しかないのです。そして彼らは『自分自身に勝利を告げるための歌』を『今日も歌い続け』る『ラフター』として『絶えず響いてた声』と共に生きていくのです。
かっこよすぎる! こんなの憧れない方が無理! 最高!
木綿のハンカチーフ / 太田裕美
最後にご紹介する曲は屈指の名曲の『木綿のハンカチーフ』です。
この歌は何が素晴らしいって歌詞の奥深さにより様々な解釈が可能な点です。正直、僕のこの歌の解釈は上に貼り付けた橋下愛さんが歌われているバージョンのそれとは異なります。
もちろん上に貼り付けた橋本愛さんの『木綿のハンカチーフ』も素晴らしいです。特に今の時代にYouTube上で展開される「THE FIRST TAKE」という番組で発表する歌い方としては最適のモノでしょう。
この歌はもしかしたら旅立ってしまった男性を想って日々泣き濡らす女性の悲恋の歌なのかもしれません。そうではなく恋多き男女の若かりし日の一瞬の恋愛を切り取った歌なのかもしれません。もしかしたら実際には女性は存在すらしておらず「地元で自分の事を想い続けてくれている人がいる」という妄想を抱えながら都会で働く男性を歌った曲なのかもしれません。
個人的には「根本的に価値観の違う男女が『上京』というイベントを経験し、それぞれ異なった方向性で成長していく歌」だと解釈しています。でなければ原曲が楽し気なメロディーと歌い方になっているわけがないのです。
僕の解釈としては、この歌は「永遠の恋心と別れ」みたいな重い気持ちを歌っているわけではない。だって、3番の歌詞の時点ですでに男女ともに相手の事をかなりイヤになってますからね。特に男の方がヒドい。
さすがにいくら田舎の女性と言えども(なにかしらの強い思想等の事情が無い限り)『くち紅も つけないまま』なわけないんですよ。それに重ねて『見間違うような スーツ着たぼくの写真 写真を見てくれ』とまで言っています。これ「お前と違って俺はイケてるぜ」と言ってるんですよね。確実にケンカを売っています。
それに対して女性もかなり冷たい。『木枯らしのビル街 からだに気を付けてね』です。僕の主観で意訳するとこれは「お前が憧れてる街は私には良い街だとは思えないけど、まぁ、せいぜい頑張れよ」です。完全に三下半を突き付けています。
3番の歌詞の時点で男女ともに、もう、お互いの恋慕には片を付けている。そして、4番で男は『毎日愉快に 過ごす』人物となり地元には『帰れな』くなってしまう。対して女は『木綿のハンカチーフ』で『涙拭く』ことにより次の人生を歩き始める。つまり、この恋はもう終わっているのですよね。
上京は良くも悪くも人を変えます。そして、上京した者は『帰れない』状態になる事もある。
まとめ
多くの方は『Laughter』となるために憧れと反骨心を感じながら上京し、『東京の夕焼け』の中で『「元気かどうかしんぱいです。」と 手紙をくれるみんな』を思い出しながら、やがて『帰れな』くなっていく。
無理に帰るとどうなるか? その答えは室生犀星の『小景異情 その二』に描かれている。いまさら僕がここで語る必要も無いだろう。
いやぁ、上京ってホントに良いモノですね。
本日の締め
今回は僕の好きな「上京をテーマにした歌」をいくつかご紹介させて頂きました。
上京って本当にいいんですよ。色々な感情が入っているから。これは東京出身の方には感じる事の難しい、地方出身者だけにわかる数少ないテーマのひとつなのではないかと思います。
東京出身の方も海外に飛び出す時などは同じ気持ちになるのかもしれません。僕は東京出身ではないので実際のところはわかりませんが。
本日もふらとぴにお越し頂きありがとうございます。
今日の記事は当初の予定よりも遥かに長いモノになってしまいました。