山頭火さん、熊本市を彷徨い中。
そんな日の一句。
あてもなくさまよう笠に霜ふるらしい
山頭火さんが、熊本から旅に出たのは九月です。
三ヶ月で戻って来ちゃいましたよ。
日記にはこうあります。
『百余日さまよいあるいて、また熊本の土地をふんだわけであるが、さびしいよろこびだ』
帰る家も、宿代のお金も無く、この夜は、駅の待合室で寝ています。
私も昔、駅を一夜の宿にしたことがあります。
何度かあるのですが、大抵は小さな無人駅です。
バイクで旅をしていた頃のはなしです。
最終列車が行ってから、寝袋にくるまって眠り、始発がくる前に出発です。
待合の硬いベンチや床で眠ります。
最終列車が駅を離れ、人がいなくなっても、何故か人の気配はしばらく残ります。
時間が経ち、人の気配が夜に溶け、埃っぽくて、少し黴臭い空気だけが漂う頃、眠りに落ちます。
どの駅も、今はもう廃線になった路線にありましたから、
あの駅舎たちも、無くなっていることでしょう。
山頭火さんの日記を読んでいると、自分の記憶を呼び醒ますような記述に時々出くわします。
そんな時、頭の中というより、体のどこかが憶えていた感覚が蘇りそうになります。
しっかり蘇って、感覚を取り戻してしまうと、今後の人生がややこしくなりそうなので、そっとしておくようにしています。
私の場合は笠ではなく、ヘルメットですが。
あてもなくさまようメットに霜ふるらしい。に、なると困りますからね。
山頭火さんの言う、『さびしいよろこび』は危険極まりないです。
数日後の日記を読み進むと、山頭火さん、行くあてが無くなって、元奥さんの家に泊まったふしがあります。
焼けぼっくいにキャッチファイヤーは、危険極まりないですから、人生ややこしくなりますから。
そっとしておいた方がいいんじゃないかなぁ。
もどって来ちゃいましたか。そうですか。
会いたい人でもいましたか。そうですか。
でも、すぐ出て行っちゃうくせに。