【ど素人店長、ネットショップでさをり織りの布を売る】第2回 :お店のコンセプト

ど素人店長、ネットショップでさをり織りの布を売る - アイキャッチど素人店長、ネットショップでさをり織りの布を売る

前回は、ふらとぴでライター修行をさせてもらおうと思ってクリエイター加入を決めたぢーこが、どういうわけだかネットでさをり布を売るお店を開いてしまったところまでの話を伺いました。

今回はお店を作るにあたり、どんなコンセプトでやっていこうと考えたのか、などを教えていただければと思います。

なお、今回もインタビュー形式ではありますが、一人二役でお送りいたします。インタビュアー・ぢーこの言葉は「――」で始まり、インタビューされるぢーこの言葉は「」でくくられています。

――こんにちはー。今日もよろしくお願いいたします。

「こんにちは、よろしくお願いします」

――早速ですが、ぢーこさん。今日はさをり織りの布を売るネットショップ・コースタ814を開くにあたって決めたコンセプトとかその辺りのお話を伺いたいんですが。

「コンセプトですか、…コンセプトってどういうことを指すんでしょう?」

――ちょっとお待ちくださいね、Google先生に訊いてみます。あ、ありました。「概念・基礎となる考え方」だそうです。つまり、お店を開くにあたり、こんなお店にしたいなあとか、こういう風に売りたいなあとか、何かしらぢーこさんが考えていたことですよ。

「あ、そういうアレですね。最初から固まってたわけじゃないんですが」

――はじめはこうしようと考えていたことは特になかった?

「そうですね。まあ、きれいだから売れるんじゃないかな? くらいの感じでした。でも今はこうしようって決めてることはあります」

――それは、一言でいうとどのようなことでしょう?

「二つあるんですが、ひとつめ。きれいだと思う人が買えばいい。ふたつめ。手作りは楽しいと思える人を増やす

――ひとつめから伺います。これはどういうことですか?

「えーと、さをり織りってもともと、ミスから生まれたものらしいんです。昔は織物の糸が抜けてるなんてキズモノ扱いで売れなかった。でもある日、城みさをさんっていう方が、間違って一本縦糸が抜けたのを織りあげちゃったんですって。でもこれもなんかいいじゃんって思って呉服屋さんに持ち込んだら、呉服屋さんもこれいいじゃんって気に入ってくれて。」

――ノリが軽いですね。本当にそんな話だったんでしょうかねえ?

「実際に現場を見たわけじゃないからわかりませんけど、書いてあることを読むとそういうことみたいです。そこからわざと糸が抜けてるのとか不揃いなのとか織り始めたのがさをり織りの最初だったらしいんです」

――わざと『キズモノ』を作ってたんですね。

「そうですね。『差を織る』っていうのも『さをり』の意味の一つらしくて、個性を織り込む、他人との違いを織りで表現するみたいなアートなんだと思います。こちらの作品なんて、普通の呉服屋さんでお目にかかれないと思うんですよね」

さをり織り 例
出典:「個性映す「さをり織り」 札幌で展示(北海道新聞 動画ニュース https://youtu.be/w_qdq4xoBUg)

――なるほど。かなり個性的ですね。

「でしょう? あとね。やってみるとわかるんですが、大人が織物をしようとすると、どうしてもキズが許せなくて完璧を目指しちゃうんですよね。」

――どういうことですか?

「織物って実は簡単で、小さい作品なら機織り機がなくてもできるんです。子ども向けのイベントで牛乳パック機織り体験というのを企画したことがあるんですが、いざ自分で織るとどうしても、左右対称であるとか規則正しいパターンが並ぶとか、そういうことに気持ちが行っちゃうんですよね。」

牛乳パック機織り体験の画像

――ああ、なんとなくわかります。普段の生活でも対称性があるものって美しいなって認識されがちですもんね。曼荼羅アートとか、イスラムのモザイクとか。リズムを感じられるものって美しさを感じやすいのかもしれないですね。

「そうなんです。だから、どうせやるなら美しいものを作って持って帰ってくれた方が子どもも楽しいだろうって思って、パターンが簡単そうで仕上がりがきれいになるような織り方を教えちゃうんですよ」

――ほうほう。

「だから、手織りでわざとパターンを壊してそれを美しく仕上げることは、センスがかなり要求されるような気がしてるんです。パターンからはみ出すってむつかしいんですよ。実際私が織ってもどうしても自分が知ってる美しさを追求しちゃって破天荒にはなれない。わざと適当に作っても仕上がってみるときれいに見えない」

――なるほど。

「でも、私がさをり布を引き取らせていただいているお二人はそれをやすやすと飛び越えてるような気がするんですよね。緻密な思考というよりも感性で織っているように私には見えるんです。リズムとかパターンとか結構でたらめで。でも織り上がってみると美しい。そこがすごいなって思いました。真似できない。もうひれ伏すしかないです。私は自分にできないことをやってる人は無条件に尊敬しちゃうので、しっぽ振って『さをり布』に飛びつきました」

――なるほど、自分にない才能には惹かれますもんね。ところで、織り手さんはこの布で何か表現したいと思って織っていらっしゃるんですかねえ?

「正確なところは本人じゃないのでわかりません。でも今、コースタ814の布を織ってくださっている方は二人いらっしゃるんですが、そのうちの一人のお母さんから聞いた話をご紹介しますね。お母さまは、お嬢さんが織ってるところを横で見ているとどうしても口出ししたくなっちゃうんですって。『ずーっと暖色系で統一感があったのに、なんでそこで急にそんな色を入れるの?!』と信じられない色遣いをされるらしいんです。でも、織り手さんは、そんな風に口出しされるとパニックになったり怒ったりするので、もうあきらめて何も言わなくなりましたっておっしゃってました。だから、やっぱり表現したい世界はあるんだろうなと思います。私たちみたいに『こういうものが美しい』っていう決まり事を持ってない分、イメージしたことが自由に出てくるんじゃないですかねえ

――へえ、おもしろいですねえ。

「そうおもしろいんですよ。前にある布を見た時に『これは夜かな? 夜になんか楽しいことがあったのかな?』って感じたんですよね。それで、お母さんに聞いてみたら『ハロウィーン、ハロウィーン♪って歌いながら織ってました』って言われてやっぱり!って思いました。そんな風に織ってる時の気持ちが伝わってくることが時々あります。だから、さをり織りは言葉でうまくコミュニケーションできない人たちにとっては自分の思ってることを表現する手段なんだろうなと思います」

――それはぢーこさんの思い込みではなく?

「そうかもしれないです。でも、少なくとも私はそう感じたんだしそれでいいかなって。『きれいって思う人が買ってくれたらそれでいい』ってその時決めました。伝わる人に伝わればいい」

――その時決めたってことは、最初はそう思っていたわけじゃないんですね?

「最初は『全人類よ、これを買え』くらいの気持ちでしたね。こんなにきれいなんだから、手元に置いて見てるだけでもウキウキするよ、って。でも、冷静に考えると『やっぱり全人類には売れないよな、ハンドメイド好きな人に買ってもらおう』と方針を変えて失敗したんです

――それはどんな失敗でしょう?

「一言でいうと、ターゲットをハンドメイド作家さんに決めたことでその人たちの方だけ向いてしまったんです。
そもそも最初に仕入れた布は全部で70点くらいあったんですがその中で『ストール』とか『マフラー』とか商品名がつけられそうなものが3点くらいしかなかったんですよ」

――商品として完成していていそのまま売れそうなものが3点しかなかった、ってことですね。

「そうです。残った布たちを単体で売るのはむつかしそうだと思ってどうしたものかと考えました。私が最初に手に入れたさをり布はポケットに作り替えて好評だったし、布屋として素材のさをり布を販売しようと思いました。」

――これですね。

さをり織りのポケット

「はい。で、この作り方をネットに載せて、さをり布でこんなものが作れますよっていうアイデアを一緒に売る店にしようと思ったんです」

――それはいい考えですね。

「ですよね。それで、素材を販売する布屋である以上、布のキズはちゃんと記載しないとダメだと思って、『縦糸が一本抜けてます』とか『横糸が飛んでていて穴があいてます』とか商品説明欄に書いてたんです。そしたらそれを読んだ友達が『これだと売り物にならないものを売ってますって感じが出ちゃうからよくない。商品に対する愛が感じられないと買う側も買おうと思わないよ』と教えてくれました。」

――良いお友達ですね。

「本当にそうなんです。ありがたい。さをりの語源を調べたのもその時で、それを読んで確かにそうだなって思いました。織り手はただ差を織ってるのに、その差を私はキズだと思ってるって書いてるようなもんですよね。それで、サイトの文言を『穴が開いてます』から『透け感が楽しめます』って直したんですが、その直す前のものをお母さんが読んでいらっしゃったようで、次の月から私のところに届く布の量がガクッと減ったんですね」

――うわ。それはやっちゃいましたねえ。

「はい。お母さんは『娘は毎月段ボールいっぱいくらい布を織ってる』とおっしゃっていたので、コンスタントにそれくらいの仕入れ量があるんだろうなと思っていたら、翌月いきなり届いた布が半分以下になってしまった。どうしたんだろうかと思って聞いてみたら、ネットショップを見て『穴が開いてて売れないものを押し付けるのは忍びない』って糸が抜けているものをよけて届けてくれてたんです」

――それは…お母さんとしては傷ついたんでしょうねえ。

「だと思います。『これは売れます!きれいです!』って引き取っていった布の説明に『穴が開いてます』なんて書かれていたら騙された気になりますよね。お母さんにはすぐ謝りましたけど、申し訳ないことをしました。こういうところで人がどう感じるかっていう想像力が試されるんだなと思いました。」

――織り手さんや周囲の方々に対する配慮は必要ですものね

「はい。もうめちゃくちゃ反省しています。私がさをりをきれいだと思っている、その熱量をおもてに出すのが恥ずかしくてセーブしてたのがよくなかった。『私はこれがきれいだと思うんですけどぉ、皆さんはあんまり好きじゃないですかぁ?』って腰が引けておずおずしてました。もっと暑苦しいくらいさをり好き好き!って出せばよかったです」

――出せなかったのはどうしてでしょう?

「なんていうか『障害のある人の作った作品を売ってる人』っていい人っぽいじゃないですか? 私、自分がいい人だと思われることにものすごい抵抗があるんですよ。いやらしいじゃないですか。それに誰が読むかわからないところに暑苦しい想いを載せてもドン引きされるだけだろうって思ってましたし」

――ああ、わかる気がします。でも結局のところ、伝わるのは熱量ですからねえ。それをおもてに出せないなら売らないほうがいいのかもしれません。

「そうですね。内弁慶でうまくいく商売なんかないですもんね、きっと。これからはもっと暑苦しく行きます」

―-じゃあ、今のターゲットはハンドメイド作家さんではないのですか?

「うーん。本音を言えば、特定の作家さんとつながって毎月一定の販路が確保できたら楽でいいなとは思ってます。でもそれだと、二つ目のコンセプトが実現できないので、今のターゲットはすべての人類ですね、やっぱり」

――その「手作りを楽しいと思う人を増やす」っていう二つ目のコンセプトはどこから来たんですか?

「そちらはですね、ポケットを作った時に裁縫ってこんなに面白いんだって思ったのがきっかけです。ちょうどNHKで『ソーイング・ビー』ってイギリスの番組が放映されていたのも大きいかな。毎回違うドレスや紳士用シャツ、コートと違う課題が与えられて制限時間内にそれを縫い上げるっていうもので、年齢も性別も様々な人たちが裁縫の腕を競い合うんです。服ってこういう風にできてるんだ!と発見があったし、見てるうちに自分でも何か作りたくなってきたんですよね」

――影響されやすいですねー。

「そうなんです。でも、それまでの私は裁縫にはものすごい苦手意識があって、家庭科は裁縫の実技になると途端に成績が2になっちゃうし、毎回ミシンの針を折るので『あなたは学校の針はもう使わせられないから自分の針を持ってきてね』と先生から言われるしで、ろくな思い出がなかったんですよね。だから、裁縫はできるだけ遠ざけていました」

――それが180度変わったのは、なぜですか?

「自分の楽しみのためだけにやってみたら面白かったからですね。学校の授業で全員一斉に同じものを作って評価されるのは、楽しみよりもストレスの方が大きかったです。でも、自分が作りたいものを自分のために作るのは楽しかった。近所に『ミシンカフェ』があったのも大きいです。そこは必要な道具は何でも揃ってる上に困ったらプロが教えてくれる。早速おじゃましてポケットを作らせてもらいました。びっくりしたのはミシンが私の中学の頃より格段に高性能になっていたことでした。針が折れない! 自分が頭の中に描いたものがそのまま現実の世界に出来上がることが初めての経験だったのもあってはまりました。裁縫ってこんなに没頭できるものだったんだ、モノづくりの試行錯誤はこんなに集中できる貴重な時間なんだなって知りました」

「ミシンカフェ」で作ったポケット

――没頭と集中ですか?

「はい。没頭と集中って心に効くなぁ、って思いました。瞑想みたいな効果があるって思ったんです。完成すると達成感もあってめちゃくちゃすっきりしますし。でも、私みたいに苦手意識を持ってる人はそもそも裁縫に手を出そうとしないですよね。だったら家庭科2の不器用代表みたいな私が『こんなのを作ってみました』という記録と一緒に布を売ったら、ちょっとやってみようっていう気にならないかな、これを広げたら楽になる人いるんじゃないかなと思いました。世界も平和になりそう

――目論見は当たりましたか?

「うーん、どうでしょう。私が作ったものを見て『やってみたい!』と買ってくださった方も数名いらっしゃるので当たったって言えば当たってるのかな。おひとりめちゃくちゃセンスのいい方がうちの布を気に入ってくださって、簡単で可愛いものを作っては写真を送ってくれるんです。それをインスタで紹介させてもらったりしています。それを見て『私もこれが作りたい』と思ってくれる人が増えるといいなあと思ってます」

――最後に『コースタ814』って変わった店名ですが、由来を教えてくださいますか?

「それはもうシンプルな理由です。布を納品してもらうとき、いつもこんな感じでキッチンペーパーとかメモ用紙でくるんであるんですが、そこに必ず『コースタ』ってカタカナと数字がいくつか並んでいるんです。」

『コースタ』と数字

「ご本人は自分が織っているものを全部コースターだと思っているらしくて。口に出した時の音が可愛いなと思いました。数字は最初に見つけたものをそのまま店名にしました」

――なるほどー。可愛い名前ですよね。

「でしょ? 友達二人から『これがいいですよ』って推してもらったのも効いてます」

――今回はコンセプトなどを伺いました。ありがとうございました。

「ありがとうございました。」

ぢーこ運営ECサイト:コースタ814

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コースタ814は、もともと仕入れている数が少ないので、月末が近づくと、在庫がないことがよくあります。申し訳ありませんが、そんな時は布を見るだけでお楽しみください。

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