前回まではぢーこのセルフインタビュー形式でお送りしてきた本連載。
今回からは1人称のエッセイ形式でお送りします。お楽しみください。
それは紙袋から始まった
小学校一年生の頃、当時たんぼ以外に何もない田舎に住んでいた私の家に珍しく都会からお客様があり、デパートの紙袋に入ったお菓子をお土産に持ってきてくれた。中身のお菓子が何だったのか忘れてしまったが、あの紙袋から受けた衝撃は一生忘れない。どこのデパートのものだったのかはわからないのだが、しゃれたデザインとカラフルな色づかいが当時の私にはこの世のものとは思えないほど美しく見えたのであった。
お菓子そっちのけで私は紙袋を母にねだった。これがほしい、これちょうだい、なんでもするから。紙袋一枚で、何でもしちゃあだめだと思うが、当時はそれくらいその美しい紙袋が欲しかったのである。
紙袋を手に入れた私は毎日のように愛でていた。友達の家にリカちゃん人形を持って遊びに行くときはその紙袋に入れて行ったし、学校に図工で使うヤクルトの空き容器を持っていく、なんて時にもその紙袋を使った。しかしながら、しょせん紙である。ヘビーユーズに耐え切れず、持ち手のひもが本体から抜け、抜けた穴が大きく広がり、そこから破れ始めて、紙袋は見るも無残な様相になった。それでもセロテープで補修して使っていたのだが、ある日とうとう底が大きく裂け、紙袋はもう、紙袋としての機能を果たせなくなってしまった。
「もう捨てたら?」
周囲の大人も友達も言った。
私は泣いた。生まれて初めてこんなに愛したものが、他人から見るとごみ同然にボロボロになってしまったのだ。使わないでとっておけばよかった。後悔しても遅い。どうしても捨てられずに机の上に置いたまま、宿題をする時に、そっと触れては悲しい気持ちになっていた。
毎日眺めているうちに私は紙袋の底に三角の折り目を見つけた。マチを発見した瞬間である。どうやったらこんなきれいに四角くピシッとした袋ができるのかと思っていたのだが、ここに秘密がありそうだ。私はこの「マチ」を折り紙で再現することを試みた。二つ折りにし、側面と底面をセロテープで綴じる。中から開く。底の両側に小さな三角形を作る要領で机に立てると、それらしい形になってきた。三角形の部分を折って底面にのりで貼り付ける。幅をそろえて側面に山折りに折り目をつける。できた。かなりミニチュアだが、形だけは同じものができあがった。
つまり。
ぼろぼろになってしまったあの袋と同じものを、自分で作ろうと思えば作れるのだと気づいたのだった。小学一年生の世界は一瞬にしてばあーっと開けた。もう二度と手に入らないと思っていたものが、もしかしたら自分の手で生みなおせるのかもしれない!私は新聞の折り込みチラシを何枚も試作に使い、何度でも再現できることに驚喜した。いける!
それから一か月くらいの間は、来る日も来る日も紙袋を作っていた。大きいの、小さいの、中くらいの。チラシの裏が白いものは、そちらを表にして自分で模様を描いた。小学一年生がクレヨンで書く絵だ。あの袋のような美しさはない。けれど私は大満足だった。続けていけば、いつかはたどり着けるとわかったからだ。
結局途中で夏休みになり、蝉取りに忙しくなった私は紙袋作りを途中で投げ出すのだが、あの経験は私にとっての小さな自信になっている。やり方がわかれば、いつかはそこに行けるのだと思える。びっくりするくらい大きな夢を持たない限り、やってみたいと思ったことはだいたいできる。
ハンドメイ道はどれほど遠いのか?
さて。そこから約50年が過ぎた。
私は順当に年をとりおばちゃんになった。
慣れ親しんだ土地を離れ、北陸敦賀にやってきて、さをりを織る人たちと知り合った。美しい布を何とか売りたいと思い「私でもできるハンドメイド作品とともにさをりを紹介して販売する」というプランを立てたが、何しろ紙の工作と違って裁縫はハードルが高く、ひょいひょいときれいな作品は作れない。
そこで、正直にものづくりのレベルアップについて書いてみたいと思う。手芸の道ではどのくらいの作品が、どれほど時間と経験をかければそれなりにでき上るのか? さをりのがまぐちを、私の作った実物をお見せしながら解説していこうと思う。
見本は作業所で作られたがまぐちだった
こちらはとあるオークションサイトで見つけたがまぐちである。説明を読む限り、障害福祉施設で作られたものらしい。これはかわいい!と目を引かれ、私もさをりでこれをつくろうと思った。ここを目指してスタートしたのである。
第一作目 2021年2月22日
ダイソーのプラスチック口金縫い止めタイプを使った作品である。まだミシンを持っていなかったので全部手縫い。見本がプラスチック口金でしかも縫い止めタイプだったので、同じものを用意した。しかし、この時は型紙や手順書といったものをまるで読まず、見たものを自分の持っている知識と技術だけで再現しようとしていたので、裏地をつけることも知らなかった。無謀である。ご覧いただければわかると思うが、中身は相当ひどい。ハンドメイ道は我流ではだめだと理解した回であった。(製作時間3時間半)
第二作目 2021年2月27日
五日後に同じプラスチック口金でリベンジをはかったのがこちら。口金に同梱されていた型紙と手順書を読んで作った。しかしながら、この手順書がビギナーには全く優しくない。
何をどうすればこうなるのかが全く分からず、適当に作った結果、やはり敗北した。その時の経緯がこちら。
ここで私は学んだ。ダイソーにあるのは、ある程度手芸ができる人向けのグッズであることを。初心者はきちんと初心者向けのキットなどで学んでから出直さなくてはいけなかったのだ。次に向かったのはダイソーではなく、がま口専門のネットショップであった。(製作時間4時間)
第三作目 2021年5月6日
がまぐち専門ショップ「はまラボ」で見つけたのがこちら。印鑑ケースである。うたい文句の「縫わなくていい」に惹かれて飛びついた。針と糸さえ持たなくていいなら、私は最強だ。手芸は苦手でも工作はけっこう得意なのだ。結果的にこれは良かった。キットになっていた上に、本当に縫わなくてよかったし、初心者にはステップが少なく大変優しいのにきれいに仕上がった。その上、口金に布をはめ込む作業は、適量を把握しないと手がボンドでベッタベタになるということを、この印鑑ケースづくりで学べたので次に生かすことができた。(製作時間1.5時間)
第四作目 2021年5月22日
この頃からYouTubeに手芸の得意な人たちが、小物づくりの動画を上げてくださっていることに気づき、裏地のつけ方をようやく理解する。ダイソーの口金とダイソーの裏地をさをりにあわせ、やっとこさ人に差し上げてもまあまあ大丈夫かなというものができるようになった。こちらは、記念にコースタ814の作家Sさんのお母様にプレゼントした。実印ケースに使ってくださっているという。ありがたい。(製作2時間)
第五作目 2021年6月17日
Sさんがいつもさをりを包んでくれるキッチンペーパーに謎のメッセージが残されていた。
「カトクス? はて、かとくすとは何だろう?」とお母さまに電話してみると、ご本人は「カードケース」と書いたのだという。なるほど、カードケース!
そこで、このペーパーで包んであったさをりでカードケースを作ってSさんにプレゼントしようと思いつく。同じころ、私の手芸のお師匠様が、カードケースをクリアファイルとさをりで作っていらっしゃったので真似しようとしたのだが、当時は型紙を自作するというところがハードルが高くて挫折し、結局、はまラボさんで口金と型紙を購入し作った。
結局、Sさんはカードケースがさほどほしかったわけではないらしく、私が愛用している。使ってみて思うのだが、専門店の口金はやはり丈夫だと思う。型紙もサイズぴったりのものを売っているし、作り方の説明書も丁寧。基本が理解できるまでは前の人が通ってきた道を歩くのが近道なのだと学ぶ。(製作2時間)
第六作目 2021年6月22日
ここで一気に調子に乗る。ちょうどこのころ、愛用していた財布のファスナーが壊れたため、自分で財布を作ろうと思い立つ。しかも「これから仕事で使うし!」と、ミシンも買ってしまう。勢いづいて作ったのがこちらの長財布。
当然、口金も型紙もはまラボ。こちらはコースタ814のもう一人の作家・Kさんのさをりで作った。そして、これは猫型の「起こし口金」というちょっと変わった口金をはめていて、そこも大変気に入っている。
このあたりから「私でもできるハンドメイド作品とともにさをりを紹介して販売する」というコンセプトを忘れ、ひたすら作ることに没頭し始めたので、作っている過程の写真がまったく無い。つまり、裁縫の世界にどっぷりハマりだしたのがこの頃。(製作6時間)
第七作目 2021年7月10日
この頃、生意気にも自分の屋号をタグにしてがま口に付けたらかわいいんじゃないかと思い立ち、ネットで安く作ってくれるところを探す。見つけたのがこちら。Citto+というショップである。データ入稿するとかなりお安い。
そして、この頃から我流のやり方を試してみたくなり、裏地を別縫いしなくて良い方法などを試してみた。(結果、がま口にこの方法は奇麗に仕上がらないためやめた方がいいという結論になった)
申し訳程度にさをりを付けているところが我ながら仕事熱心。(製作時間二つで3時間)
第八作目 2021年7月11日
簡単な型紙を自作する方法をYouTubeで発見し、早速試してみたのがこちら。ダイソーの口金に戻ってきたが、特に問題なく作れるようになっていた。
おまけになんと、こちらのがまぐちは、全く面識のない方から「売ってほしい」と言われて二つ販売できた記念碑的な作品。中学時代、家庭科の時間にミシン針を折りまくっていた私が成仏できたと思えた瞬間。(製作時間三つで5時間)
第九作目 2021年7月25日
基本に立ち返って、ダイソーの口金に同梱されていた型紙で作ったもの(右)とマチをぐるりと一周させる形で作ったもの。結局、ダイソーの型紙が一番楽であるということを実感した。ただ、説明がわかりにくいだけで型紙だけならダイソーさんはすばらしい。(製作時間、この時はばね口ポーチも一緒に作っていたのでよくわからないけれど、右だけなら30分。左はたぶん1時間くらい)
第十作目 2021年8月14日
あおりポケット付きがまぐちに挑戦したくなり、ネットで動画と型紙を探す。こちらの動画のコメント欄にPDFの型紙もついていて、説明もわかりやすかった。
ちなみにこちらの猫バッグは、布も持ち手も口金もすべてダイソーでそろう。布は手ぬぐいコーナーにあった。
毎回思うのだが、縫い始めてしまえばそんなに大変ではない。型紙を切り出し、それを布にあて裁断するその時間がとにかく面倒で大変。全部切ったつもりで一枚足りない、なんてこともよくある。こちらも、ミシンを踏んでいた時間だけならたぶん1時間くらい。(製作時間4時間)
まとめ
がまぐちは、基本さえわかれば、作ること自体はたいして難しくはない。二つ作れば同じものなら手が覚える。我流がとにかくよくない。紹介したYouTube動画のほかにも、懇切丁寧な解説をしてくれる人はたくさんいるので先人の力を借りさえすれば、最初からきれいなものが作れると思う。
そして、5個も同じものを作ったら、アレンジができるようになってくると思うので自分の好きな形に仕上げることもできると思う。何しろ初心者だ。タイトルに「ものづくりの恍惚と苦悩」と書いたが、苦悩は少なく、恍惚ばかりだ。あえて言うなら、型紙どおりに裁断するのがめんどくさい、というくらいで。
だから、やってみたいなー、どうしようかなー、と迷っているくらいなら裁縫の世界に飛び込んだ方がいい。自粛期間の趣味が増えるし、失敗してもダイソーならば、損失もさほどない。失敗しながら自作の楽しさがわかるようになっていくのだと思う。
こちらの文章を読んで「さをり織り」が気になった方、ぜひ、コースタ814を覗いてみてください。
ぢーこ運営ECサイト:コースタ814
コースタ814は、もともと仕入れている数が少ないので、月末が近づくと、在庫がないことがよくあります。申し訳ありませんが、そんな時は布を見るだけでお楽しみください。