こんにちは。ふらとぴ編集部チョッピーです。
前回のふりかえり
会社はCompany ! 株主と経営者は対等! 自分のやりたいことをやっている時点で、もう、幸せ! 泰延さんから「ひろのぶと株式会社」についての考え方を教えてもらうチョッピー! なんて贅沢な! 新米経営者2人の対談はいよいよ佳境へ!
前回の記事はこちら↓
気合の入ったことをやって生きていきたい
田中泰延とチョッピーとマキシマム ザ ホルモン
チョッピー:泰延さんってマキシマム ザ ホルモンのマキシマムザ亮君と親交が深いですよね。
田中泰延:はい。
チョッピー:僕も大学の時からずーっとホルモンの音楽を聴いていまして。で、YouTubeで動画が公開されてる2号店のオーディションに応募してみたりもしてるんですけど…。
田中泰延:マジで!? え、楽器は?
チョッピー:いや、私は楽器じゃなくてヴォーカルで応募したんですけど―…
田中泰延:ヴォーカルで!?
チョッピー:ヴォーカルと、今、私がやってる「ふらとぴ」を題材にコンテンツ作成部門として雇ってくれみたいな形で応募したんですよ。で、一応、一次審査通って二次の合同面接のところまでいって。だから私、YouTubeの動画にも出てたんですけど。
田中泰延:マジで!? え、嘘、もう一回観るわ。俺、だって、あれ、いっぱい見たよ、マジで。え、そうですか。出てましたか。
チョッピー:実はこっそりいたんですよ。「ガチのビジネスプランの奴が出てきた」っていう流れで。
田中泰延:あったあった! 今、思い出した。なんかガチの人来たで、っていうヤツあったねー。あー、それだそれだ(笑)
チョッピー:で、ノーマネーでフィニッシュしたのが私です。
田中泰延:あははは。いや、すごいすごい。
チョッピー:ありがとうございます(笑)
価値は自分の外にある
チョッピー:ホルモンの動画もそうなんですけど、僕、前職を辞めてから発信をし続けていまして。泰延さんは自己発信についてTwitterに「自分自身を発信するわけではないんだよ」と投稿されていましたね。
田中泰延:うん。
チョッピー:『読みたいことを、書けばいい。』の感想でも「書きたいことを書けばいいんだな」という風に誤解される方が多いと…。
田中泰延:多いね…。
チョッピー:やっぱり「自分を発信したい欲」ってあるんでしょうね。僕は「自分に価値があるわけがない」と逆に思い込んじゃってるので、自分を発信することはそんなにないんですが。
ただ、個人的に少し気になっている事もあって。たとえばサザンオールスターズの桑田さんは『ひとり紅白歌合戦』で他の人の歌を歌い続ける…という事をやられていたじゃないですか。
田中泰延:はいはい。
チョッピー:あれを観た時に、もう、他の人の歌なのに完全に自分のものにしてるのを観て、僕、「絶対この境地には到達できないな」と思ったんですよ。
田中泰延:うん。
チョッピー:つまり、あれって僕の目から見ると「自分のやり方を発信して、それが世間的にも価値が出ている」ように思えたんですね。
田中泰延:いやー、それはもうチョッピーさん、その『ひとり紅白歌合戦』で桑田が次々と歌う曲の「楽曲そのもの」に価値があるってことを忘れてるよ。「価値のある楽曲」を桑田が歌ったらそれはそれでいいし、徳永英明が歌ってもいいし、マキシマムザ亮君が歌ってもいいんだよ、たぶん。
チョッピー:…なるほど。まず大前提として歌自体に価値があって、そこに1割の自分を出すと人から見た時に「自己発信」のように見える…と。
田中泰延:そうそう。一番わかりやすいのは役者ですよ。「ロバート・デニーロの私生活知ってますか?」という話。ロバート・デニーロは他人にしかなったことないの。でもみんな「ロバート・デニーロはすばらしい」って言ってる。これでいいと思うんですよ。
チョッピー:なるほど。
田中泰延:ピカソの絵を見たら「わー、すげえなー!」と思うやん、やっぱり。わかんないやつもあるけど。ピカソなんて会った事もないのに。
チョッピー:そうですね、僕も会った事ないです、もちろん(笑)。 でも、スゴいとは思いますよね。
田中泰延:ベートーヴェンにも会ったことない。
チョッピー:うん、確かにそうですね。僕もマキシマム ザ ホルモン、すごい好きでしたけど、2号店のオーディションに出るまで彼らにお会いしたことなかったですからね。
褒められたい
田中泰延:あのねー、「私はこういうつもりでモノを作りたいのです」っていう人、世の中にめっちゃ多い。だけど、それはその人が作ったモノを他人が見て「こういうつもりなんじゃないかな」って言ってくれることであって。作った人が自分で言うことじゃないだろって思う。
チョッピー:評価は他人が下すモノであって、自分で下すモノではない…という事ですか?
田中泰延:うん。でも、みんな褒められたいの。今の社会は。
チョッピー:褒められたい。…そうなんでしょうね。
田中泰延:これね、親があんまり褒めてないんじゃないかと思う。社会全体が、親が子供を褒めるってことをしてないんじゃないかな。
チョッピー:親…。泰延さんはYouTubeの動画(本連載第4回参照)でもご両親のお話をされてますよね。あれ、すごいなと思ったんですよね。うちは両親、仲悪いんですよ、非常に(笑)。なので家族の話を外ではあんまりしたくないってところもありまして…。でも、やっぱりそこらへんの基礎的なところって大事ですよね。
田中泰延:したくないって話だと、うちなんか親父が結婚6回、母親が結婚3回だからしたくないんですよ。めちゃくちゃだもん。もう、めちゃくちゃ。
チョッピー:(笑)
田中泰延:もう、荒くれ者同士の間でこんなもみくちゃになって生きてきて。異母兄もいれば異父弟もおる。異母姉、異父弟…わけわかんない、もう。人間で入り乱れてね。包丁が出たりなんかもしてるけれども、でも、それは本質的な問題じゃないからね。
チョッピー:うーん。
田中泰延:父親という人が自分にどう向かい合ったかという話で。母親は俺、苦手なんだけど、ちょっと。
チョッピー:そうなんですね。
田中泰延:うん、そう。単に苦手。うっさいねん。いつまでたってもうっさい。この間、俺がテレビ出たのを母親が観て電話かけてきて。「あんた、猫背」って。そんなことどうでもいいやろ。しかも、収録の番組やのに。電話かけて、どうするつもりやったん? もし生放送やったら俺が生放送中に電話に出て、猫背、直すと思ったん? おかしいやろ。すべてがおかしい。
チョッピー:(笑)
田中泰延:でも、母親は言いたいねん、そういうの。ただ、父親は僕に何を言ったかっていうと、褒めたんですよ、俺のこと。
チョッピー:はー…。
田中泰延:だから、俺はもう誰にも褒めてもらわなくてもいいの。父親が褒め終わっとるから、俺のことは。世界中の全員が俺のことを「デブバカアホカス」って言っても「お父さんから褒められてるから別に俺はOK」ってなる。そういう時間という壁に守られちゃってる。
チョッピー:なるほど…。
田中泰延:うん。
「いいね」は「褒められ」ではない
チョッピー:今、自分自身を褒めてもらいたいと思ってる人は、あんまりそういう…親から褒められた経験がない感じなんですかね。
田中泰延:わかんないけど、あまりにも今はスマホ一台握りしめて「このスマホの使い方次第で褒められるんや!褒められよう!」と思ってる人が多すぎると思う。
チョッピー:うーん、そうですね。
田中泰延:うん。で、「褒められて何なん? なんか得ある?」って思う。
チョッピー:うーん、なるほど、そうですね。…正直、僕は「いいねで自己肯定感が上がる」という感覚がわからなくて。まぁ、僕はTwitterのフォロワーも少ないし普段の投稿に「いいね」もつかないので、実感がないだけかもしれないんですけど。でも、たまに「いいね」がそれなりにつく時もあって。そういう投稿って「自分を発信した投稿」ではなくて「相手が喜ぶであろう投稿」なんですよね。
田中泰延:そうそうそう! それ、いい話だと思いました。つまり、「いいね」は相手が喜んで「イェーイ!!」って興奮してるから押されるのであって、投稿者の事を褒めているわけではない。
チョッピー:そうですよね。
田中泰延:ちなみにTwitterで5万いいねがついたツイートがあって。5万いいねもつくんだからさぞフォロワーも増えてるだろうと思って確認したら増えたの268だけだったりすんのよね。つまり投稿した人と「いいね」は関係ないんですよ。
チョッピー:うん、そうですよね。
田中泰延:「いいね」を押す人は内容を褒めてる。いや、もっと言うと、チョッピーさんがおっしゃるように自分が気持ちよくなったり面白がれたりするから「いいね」って言ってるだけで、誰も投稿した人は褒めてない。
チョッピー:うん。
田中泰延:でも勘違いするのよね、「いいね」を押された人は。俺、「田中さんの文章読んで感動しました」ってツイートは絶対リツイートするんだけど、それは俺が「見て! 褒められてるよ!」って言ってるんじゃなくて。わざわざそんなことを書いて、時間を取ってくれた人に報いたいの。「はいはい、書いてくれました。僕はそれを読みましたし、こんなことを書いてくれたという労力は無駄にはしませんよ」という意味のリツイートなんですよ。
チョッピー:うーん、わかります。そう、そうなんですよ。なんというか、TwitterとかのSNSで、承認欲求とか自己表現とかの話を聞くたびにすごい違和感があって。たぶん、フォロワーがたくさん増えてる時も、それは別に自分が褒められてるわけではないので、おそらく何も満たされないんじゃないか…と。ごめんなさい、フォロワーが少ない僕がフォロワーが多い方に対してこんな事を言うのは失礼だと思うんですけど…。
田中泰延:いえいえ。フォロワー数なんて俺が決めたわけじゃないので(笑)
「フォロー」は「好き」でもない
チョッピー:誰かをフォローしてる人って、その人を好きでフォローしてるわけではなくて…まぁ、そういう場合もあるかもしれませんけど、基本的にはその人が役に立つ投稿とか面白い投稿とかをしてくれるからフォローしてるだけであって、たぶんその人自身をフォローしてるわけじゃないですよね。
田中泰延:しかも俺のアカウントは役にも立たないから。
チョッピー:いえいえいえ(笑)
田中泰延:「カワウソとラッコは同じ動物!」って。いや、これのどこが役に立つの。これ言い続けてるんやから。そうでしょう? なんの役にも立たない。害しかないよ。害しかない。
チョッピー:最終形がトドでしたっけ?
田中泰延:そうそう。まぁ、それはよくて。
そうなのよ、俺のフォロワーは別に俺のこと好きなわけじゃないから。俺のこと褒めてもないから。もしフォロワーが俺のことそんな好きなんやったら、俺はもう毎日女の人に「抱いて! 抱いて!」って言われるはずやけど、そんなん、ただのいっぺんも言われたことないから。
チョッピー:あはは(笑)。そうですよね。それ、すごい思うんですよね。
田中泰延:それはだから「私はこんなつもりで何かを発信してます」とか「自己表現」とかって言う人と一緒で、自分が作ったモノと自分の人格を混同してるんですよね。「私はロバート・デニーロのファンです」っていう人も実は危ないのよ。知らないでしょ、ロバート・デニーロのこと。ロバート・デニーロがやった役のファンなのに「私はロバート・デニーロ好き」って言うの。
チョッピー:そうですね、たしかに。私も昔、高校の時に小説を書いてたんですよ。文系部だったので。結構、何作も書いたんですけど。その時に自分の気持ちとかを込めて書くのは書くんですけども、出来上がったその小説は、なんというか「自分」ではないんですよね。
田中泰延:うん。
チョッピー:あとで自分の小説を読み返して「自分、こんなこと書いてたのか」って思うこともありますし。だからなんというかその、結局褒めてもらいたいとか、まあたぶん愛されたい欲求だと思うんですけど、それを込めてアウトプット出すのって『読みたいことを、書けばいい。』にも書かれてましたけど、向いてませんよね。
田中泰延:うん。そんなにね、愛されたかったり、「抱いてー!」って叫ばれたいんやったら100メートルを8秒ぐらいで走ったり、ね、あとはなんか、キラキラした衣装を着けて歌えばいい。絶対、言われますよ「抱いてー!」って。もしくはアイスダンスをきめてみるとかさ。そうじゃなく「書く」っていう選択をするのは、かなり間違ってるんじゃない?
チョッピー:うんうんうん。書いても絶対モテませんもんね。
田中泰延:しかも、さっきの僕の同人誌のヤツ(本連載第2回参照)あれ、小説ですよ。あんなこと俺の人生に何の関係がある? モンゴルが28年間も朝鮮攻めた。6回攻めた。俺、関係ない。あれ書いて俺が愛される可能性ゼロ。でも、俺が知りたいから。俺の外にあることだから。それに注目してるんですよ。
「稼ぐこと」は「個人の価値の証明」なの?
チョッピー:でも、なんだろうな、Twitterとかで承認欲求を満たしたい人って、たぶん多いんでしょうね。
田中泰延:まぁ、だから、そういう人は親に愛されてないんじゃないかなっていうのが俺の仮説ね。
チョッピー:そういう人ってどうすればいいんでしょうね?
田中泰延:うーん…。親に愛されてないっていうのが、ひょっとしたらこの効率と資本の蓄積を求める資本主義の欠陥だとしたら、もはや抜け出せないですよね。
チョッピー:え?
田中泰延:つまり、親が子供を邪心なく愛するっていうことが、この出世して儲けなくちゃいけない、人に勝たなくちゃいけないという資本主義のプロセスの中で手薄になってて。そうして愛されずに出来上がった大人がまた資本主義の中に送り込まれてるとしたら、もはや無限ループですよ。
チョッピー:うーん。
田中泰延:うん。で、その愛されずに出来上がった大人が、今度は「愛されるとは資本主義の中でのポイントを獲得する事だ」という風に思うと、もうループの深さがスゴいヤツですよ、これ。
チョッピー:うーん…。個人的にずっと思ってることがあるんですけども、最近の世の中の風潮で「個人の価値」と「経済的価値」っていうのが、かなり混同されてる気が…。
田中泰延:大混同。
チョッピー:ですよね。
田中泰延:つまり、金を稼いだ人は「立派で賢い」と思われるの。
チョッピー:うん、うんうんうんうん。
田中泰延:おかしいよね。
チョッピー:おかしいっすよね。
田中泰延:おかしい。
チョッピー:そう。「価値」っていう言葉が雑に使われすぎてる気がするんですよ。
田中泰延:雑ですね。
チョッピー:本当に。非常に。
田中泰延:これはでもね、産業革命以後しょうがないんじゃないかと思うね。
つまり、たとえば古代、人望がある人は「国を治めてお城みたいなところに住めます」「みんなから尊敬されています」「王として君臨してOKです」「みんなが『万歳!長生きしてください。Long live the King』って言ってます」となっていた。これと、資本主義が発生して以来の「大金を稼ぐスキルによって手にした生活」の見た目が似てるから、この混同が起こるんですよ。
チョッピー:はー、なるほど。
田中泰延:大金を稼いだ人がプライベートジェットとお城みたいな家に住んでる状態は、古代の人徳と統治力によって人をまとめ上げた人の生活と見た目がとっても似てる。だから混同される。
チョッピー:…それはあれですね、なかなか悩ましいですよね。ちょっと解決が難しいですね。
田中泰延:そうなんですよ、難しい。だからこそ江戸幕府は豪商とかがいっぱい出てきてんの知っとるから「士農工商」って言ったんですよ。「堺の豪商がどんな屋敷を構えようが私たち殿様とは全く違うんだよ」ってことを決めたわけです、あえて。でないと混同が起こるから。「豪商はあんなに大きい屋敷に住んでる。つまり偉いの?」って。
チョッピー:うーん、確かにそうですね。一方、今の世の中は、実際どうかは置いといて、建前としては「全員平等」でやってるわけですよね。
田中泰延:そうなってくると「稼ぐ」という「そろばんが上手な人」が豪邸に住んだら、もうそれ以上、上はないわけですよ。
チョッピー:そうですよね。秤がそれしかないですからね。
田中泰延:秤がそれしかない。そして、民主主義の選挙における当選した国会議員なり、法案を作ったり政策を遂行する人は、もはや稼ぐのが上手な人の業者ですよね。そういう人のお金で活動が成り立っているわけだから。政治家というのはお金を稼いだ人の、実は資本主義の一番の業者なの。
チョッピー:…ごめんなさい。「ぎょうしゃ」というのは「商売人」という意味の「業者」…?
田中泰延:えーっと、清掃「業者」とか。その「業者」です。
チョッピー:なるほど、ありがとうございます。
田中泰延:うん。資本主義が発達した社会における政治家というのは、基本的には資本を持った人の業者。資本を持った人の業者が民主主義の中で選ばれた人。これはもう必然ですよね。
チョッピー:資本主義においては資本を持ってる人が偉いわけですからね。
田中泰延:そう、だから江戸時代の士農工商のことを考えると、現代は全く逆になったわけですよ。当時は行政をつかさどる人が「商」というのを「確かに豪邸に住んでるかもしれないが、地位は一番下」とあえて決めた。今は豪邸に住んでる「商」が一番上。
チョッピー:なるほど…。あー、じゃあSNSの「いいね」は根深いですね。承認欲求の問題と金銭の問題の両方を一挙に解決する手段として「フォロワー」と「いいね」は捉えられますもんね、今の世の中。なるほど、だからみんな「いいね」が欲しいのか。「愛されてる気分」と「金を生む手段」を与えてくれるから。
田中泰延:そう。
チョッピー:なるほど…。疑問が解けました。
田中泰延:いやー、根深いと思うな。
インタビュアーが「ねらい」を持つのはヤバい
チョッピー:すみません。お時間、まだ大丈夫ですか? もう、すごく長い間お話させていただいて…。
田中泰延:いえいえ、全然。でも、これからが大変だね。文字起こさないといけないし校正しないといけないし。僕のヤツもひとつのインタビュー記事が出来るまで、プロセスめっちゃあるんですよ、あれ。
チョッピー:そうですね…。
田中泰延:死ぬぐらい手間かかってます、全部。だからインタビュー記事はみんな、読みやすかったり、感想を言いやすいようになってるんですよ。ほとんど書いたもんと変わりないですね。
チョッピー:僕もたまに障害福祉業の人にインタビューをしたりしてるんですけど、これは大変だな…と思ってやってますね。構成とかを考えるのも、あんまり変えすぎちゃうと嘘になっちゃうしなっていうところもあって。
田中泰延:こっからが大変よ、たぶん。
チョッピー:そうですよね。特に今回は「ねらい」とかを設定せずにお話を伺わせて頂いているので。コンテンツとして仕上げるのは大変…かもしれません。
田中泰延:「ねらい」はなくていいんじゃないかな。僕ね、インタビュアーが「ねらい」持つとすごいヤバいと思うんだよ、やっぱり。
だって、相手が何しゃべってくれるかわかんないのに。もし何かの「ねらい」があって、たとえば「田中さんに働き方を聞きたい」って思ってインタビューしてるのに、俺が急に「現政権をぶっ潰せ!」とか言ったらどうする?
チョッピー:それは危険ですね(笑)
田中泰延:「僕はインタビューではそれしか言いたくねえんだよ! なにが働き方だよ! 政権ぶっ潰せ!」って、ねぇ。そういうこともありうるんだから。うん、「ねらい」はいいんじゃない?
チョッピー:なるほど。確かにそうですね。そういう意味だとインタビューって博打性の高いコンテンツですね。
田中泰延:うん。…そういえば俺、先日、ほぼ日の奥野さんのインタビュー受けたんだけど。見事なもんですよ。何にも言わないんだよ。
チョッピー:何にも言わない?
田中泰延:彼がぼそぼそっと喋って、次に俺がずっと喋ってる。「え、俺、喋りすぎてる?」って聞いたら彼は「いや、そんなことないですよ」って答えて、またぼそぼそっと喋って。で、また俺がずっと喋ってる。
チョッピー:スゴいですね。自分はちょっとしか喋らずに相手の話を引き出すって、どうやってるんでしょうね?
田中泰延:なんだろうね。俺、あれ、わかんない。たぶん何もないんだと思う。なんていうか予断がない。予見がない。意図がない。ただそこに場だけがあるんでしょう。
チョッピー:うーん。
田中泰延:つまり「この人にこういうことを聞いてやろう」とか「こういう構成にしよう」とか「これを誰かに届けよう」とか何もないんだと思う。結局。
チョッピー:あー…「届けよう」という気持ちもないんですね。
田中泰延:誰も注文してないでしょう。俺「届けよう」が一番恐ろしい。だって注文してないピザが来たらどう思う? 晩飯の後に。
チョッピー:うーん、そうですね。迷惑ですね。
田中泰延:届くな届くな! これだけは言っときたい。届くな!
好きに作ったモノがヒットする
チョッピー:そう考えるとターゲット設定って、ターゲットにされる人にとっては迷惑な話ですね。
田中泰延:そう。誰が「標的」なんや。ハトじゃないんだよ、俺は。
チョッピー:でも、広告のお仕事されてた時って…
田中泰延:もう、そればっかり(笑) 「ターゲットはー」とか「ペルソナはー」って。なんだペルソナって。ねぇ? 阪急ペルソナカードじゃないんだから。
チョッピー:(笑)
田中泰延:でも、よく考えると、広告もそうやって作ったやつはめっちゃ凡庸で。一人の広告の上手なコピーライターとかプランナーが「そんなん知らんわ。俺はこれが好きや!」って作ったヤツがヒットCMやね。
たとえばauの昔話のヤツなんかもう何年もやってるけど、昔話って誰がターゲットなんよ? あれ好きなだけやろ、昔話。作った人が。
チョッピー:確かに誰に訴求してるCMなのかはよくわからないですね。
田中泰延:好きなんですよ、きっと。作った人が。
チョッピー:電通に勤められてる時からそういうお気持ちはあったんですか? 好きなの作った方がヒットするって。
田中泰延:理屈はわかってたけど、なかなかできなかったよね。だから、それをできた人がそういうヒットCMを世に出してるんですよ。
「俺はこれが好きだからこれやるわ」って。「ターゲット? ペルソナ? そんなん関係ないわ。調査データ? あー見ぃひん、見ぃひん、見ぃひん」っていう人。「俺はビリー・ジョエルが好きだから。え? お前ら知らないの、ビリー・ジョエル。え? まだ生きてるよ。とにかくビリー・ジョエル流すよ」って言って作ったらヒットCMになるかもしれない。
やりたいことをやり続けるためには?
チョッピー:そういう人って本当にスゴいですよね。だって、当然クライアントがいるわけじゃないですか。その案でクライアントを納得か説得かさせないと通らない気がするんですけども。
田中泰延:クライアントにビリー・ジョエルが好きな人がいたんでしょうね。
チョッピー:あー…そういうことですね、なるほど。「自分が好きだから!」だけで推してもクライアントもなかなか納得しませんもんね。
田中泰延:そう。まあ一人いればいいですよ。クライアントのなんか偉い人に「うん! ビリー・ジョエル、いいね!」って言ってくれる人が一人いれば。そしたらみんな「え、なんか、よくわかんないけど部長がいいって言ってるよ、ビリー・ジョエル」って言って。それで、しばらくしたらビリー・ジョエルのCMがバーンって出来る。
チョッピー:それって有名なCMプランナーとか、コピーライターとか…たとえば糸井さんでもいいんですけど、そういう方って自分でやりたいコピーを作ってるのかな、それともお客さん要望に沿ったコピーやってんのかな…。
田中泰延:まあいろんなケースあると思うけど、糸井さんはやっぱりなんか商品に寄っていったことあんまりないと記憶してますよ。
チョッピー:そうなんですね。そういうその…ターゲットとかよりも「これがいいんだ!」と思ったものを多く作っていける人って世の中にはいるじゃないですか。
田中泰延:うん。
チョッピー:そういう方々ってのは、なんでしょうね。運がいいのか、戦略的にやってるのか。どうやってるんでしょうね。
田中泰延:うーん、俺はあんまりそういうのを人に質問したことがなくて。なぜかというと「計画的にやってたんですか?」って人に聞いても、正直に「いや、計画なんてないよ」っていう人もいるし。あと、ホントは計画なんてなくても「計画的にやったよ」って嘘つく人もいるじゃん。だから聞いてもきりがないなと思って。
チョッピー:あー、それは確かにそうですね。
田中泰延:うん。さっき言った「なぜ私は成功したか」っていう内容の本に再現性がないっていう話と同じで。(本連載第3回参照)
チョッピー:なるほど。自分が良いと思うものを出していきたいんであれば、もうその時点で都度都度、どうやってそれを出すのか…っていう方法をケースバイケースで考えてやるしかないって感じですね。
田中泰延:と、思いますよ。糸井さんが前、ある起業した人にインタビューしてる記事ですごい面白いのがあって。「えー、まず○○さんはこの商品を開発した。なんか、秘密みたいなの教えてくれます?」って糸井さんが聞くから、その人が「はいこれはですね…」ってバーってしゃべるわけ。で、その人が一通りしゃべり終わったら、糸井さんが「今の話は本当につまらないですね」って。
チョッピー:ええぇ(笑)
田中泰延:「話を作ってるっていうか、立て板に水で、誰のためにそう答えてるんでしょうか? 本当につまらないです。今日はそういう話じゃないことをみなさんに…」って。スゴかったね。たぶん、その人は求められているうちにその答えを…なんか6分ぐらいの尺で話すようになっちゃってるのよ。
チョッピー:はーなるほど。
田中泰延:俺も今度からそういう嘘を作ろうかと思って。「なぜ田中さんは文章を書くんですか」って聞かれたら「あれは6歳の、秋の、えー、肌寒い日の事でした。赤とんぼが一匹、僕の上にくるくるっと…。それがまるで文章を書けって言ってるように…」って、なんか、嘘でも言おうかな。
チョッピー:「なぜ?」って聞かれたら話を作っちゃいますよね。僕も一応、大学院で経営学を勉強してから起業してるので、ファイナンスの授業とか、投資を受ける方法とか、まあ、そういう授業も受けてるんですよ。で、そこで起業家の方々が投資家の方々に事業を説明する資料、あれは半分ぐらい自分の思い、つまり「なぜそれをやりたいのか」を伝えるモノなんだ…っていうお話を聞いて。そこですごいなんか嫌な気持ちになってですね。
田中泰延:あー。
チョッピー:はい。「なんでこれをやりたいのかって言われてもなー…」っていうのがすごいあったんですよね。
田中泰延:そうでしょう!
チョッピー:「そんな事を言われたら勝手にストーリーを作っちゃうけどなー…」みたいな。でも、やっぱりそれを求められるんでしょうね。納得したいんですかね、みんな。
田中泰延:うん、納得したい。あと、みんな、いろんなことが入力と出力と思ってるんですよね。
チョッピー:インプットとアウトプット、はい。
田中泰延:何かを入れたら何かが出てくる。そういう風に思ってるんですよ、物事を。そんなのはもうところてんぐらいですよ、入れたら確実に出てくるのは。それですら失敗することあるんだから。
チョッピー:人間はそうではない?
田中泰延:うん。
チョッピー:インをいくらしても出てこないときもあるしって事ですね…。インがなくてもアウトが出ることってあるんですかね?
田中泰延:うーん…。とにかくインプットとアウトプットじゃないことは確かよ。今の世の中の質問は9割ぐらいが「何を入力したら何が出力されますか?」って、みんな聞いてる。僕はそういう時は「芋を食ったら屁が出ますよ」って言うことにしてるんですけど。
チョッピー:(笑)
田中泰延:本当そうなんですよ。
チョッピー:結局、みんな「成功というアウトプットを出すためにはどういうインプットを入れればいいですか」っていうのを気にしてるんですかね。
田中泰延:うん。そういう時はもうね「それはわからないです。ただ、センター試験で9割取ったら東大受かりやすくなります。二次試験がんばってください」って答えた方がいいんじゃないかな。
アウトプットは作りこみが大事
チョッピー:そろそろホントに時間がアレなので…最後に一個だけ。最近、Twitterに就活生や人事の人のアカウントが増えてるな、と思ってて。で、彼らが言ってることが、まあ、どのアカウントでもほぼ同じなんですね。「即レスしろ」と「締め切りは絶対守れ」なんですけど。これ、泰延さんはどう思われますか?
田中泰延:即レスはやったらいいんじゃない? 即レスは「すいません、いま手が離せません」っていうレスでも来たらうれしいもんね。
チョッピー:確かに。それはコミュニケーションとしてそうですね。
田中泰延:なんか一日置くだけでも「なんだろう。この人、一日中、Twitterしてるやんな。でもこっちには返事がないわ。何、私のやつよくないメールだった?」ってなりますよね。これは良くないですよね。
チョッピー:そうですね。不安になっちゃいますもんね。
田中泰延:はい。まぁ、僕はTwitterは秒で返してますからね。この速度でなかったらTwitterしちゃいけないみたいな(笑)
チョッピー:そうですね(笑)
田中泰延:レスは大事だと思う。ただ、締切は相手の都合だから。本当のデッドもこっちに言ってる締切とは別にあるハズだし。
僕が締め切りをつい過ぎてしまうのは、やっぱり何度も言うけど自分が「大丈夫って思うモノ」を作り上げないと、読んだ人も僕に頼んできた人もみんなが損すると思ってるからですよ。即レスはいいよ。いいけれども、作りこむものまで即レスしてたら、依頼主も、それを買わされる人も、僕も、みんなが損すると思ってるから。俺が読みたくもないものを送られた方もたまらないだろうし、金出して買う人はもっと被害者ですよね。
チョッピー:被害者…そうかもしれませんね。
田中泰延:うん。それなら僕は、自分の書いたモノがもしクオリティに達してなかったら「書けませんでした。お金もいりません」って言うし、それで「あいつは約束も守らない。最低だ」って言われても、その方がマシ。全然マシ。次の再起のチャンスがありますから。でも、ダっサいものが世の中に出てしまったら、もはや再起できない。印刷されると、もう…。
チョッピー:確かに。それは出版する会社にも影響するお話かもしれませんね。
田中泰延:うん。みんなが再起できない。
チョッピー:うーん、なるほど。そうですね、そう考えると締め切りは…締め切りを破った場合に人が死ぬことなんてなかなかないですもんね。
田中泰延:ない。まぁ、ひどいケースはあるよ。俺がとうとう書けなくて鴨さんに謎の顔写真をコラージュされたっていうのはあります。
気合の入ったことをやって生きていきたい
田中泰延:やっぱり俺、亮君に「泰延さん書いて」って言われて書いたヤツは、どれもね、ようがんばって書いたと思うんだよね。
チョッピー:マキシマム ザ ホルモンの亮君。
田中泰延:Deka VS Dekaが出た時のウェブのヤツもそうだし、そのあと「ライブレポ書いて」って言われたから書いたのと「これからの麺カタコッテリの話をしよう」のマンガの解説も書いたし、で、この間、コロナナモレモモの解説も書いたんだよね。
チョッピー:あ、そうなんですか! ごめんなさい、コロナナは全然知らなかった。
田中泰延:そう、入ってるんですよ、僕の解説。だから都合4回書いてるの、亮君からの依頼で。それがやっぱり特に気合が入ってると思う、自分でも。俺、それは「俺と亮君が読みたいもの」を書こうと思ったんだよね。二人が読みたいもの。
チョッピー:うーん、なるほど。
田中泰延:うん。まさに俺と亮君の間にそれがある。亮君には楽曲がある。漫画がある。俺には俺の書いたものがある。なくちゃいけない。そう思うから、そういうなんか、気合の入ったことをやって生きていきたいんですよ。うん。鴨さんと俺もそうだし。
チョッピー:なるほど。…かっこいい。
田中泰延:コロナナのヤツね、ぜひ、CD、どっかに売ってると思うんで。
チョッピー:はい。ちょっと、あの、買います。
田中泰延:ほんで、あれ、全部ついてますよ。チョッピーさんも出てる映像。あれもDVDになってついてますよ。
チョッピー:そう…いや、そうなんですよね。だから…なんかちょっと逆に怖くてですね。それで、買ってない(笑)
田中泰延:(笑)
チョッピー:あれも、受かるとは思ってなかったんですけど(笑)
田中泰延:いや、でも、あれ、面白かったなぁ。いや、あの茶番がね。後半にいくにつれ茶番が増えてくるっていう(笑)
チョッピー:彦摩呂さんとか(笑)
田中泰延:マキシム(笑)
チョッピー:ホルモンですよ!って(笑)
田中泰延:いやー、ホント…。今度、あの、ライブ行きましょう。行ける時代になったら。
チョッピー:是非…。コロナが落ち着いたら…。今日は貴重なお時間をありがとうございました。
田中泰延:とんでもないです。ありがとうございました。
次回予告
これにて「田中泰延&チョッピーの「面白い話をしよう」」本編は終了です! ここまでお読み頂きありがとうございました! 次回は「あとがき」と称し、チョッピーがなにかしらを語ります。もし良ければこちらも合わせてお読み頂けると嬉しいです!
次回、あとがき! お楽しみに!