山頭火さん、梅雨の時期を其中庵で過ごしています。
ぬけるだけはぬけてしまうて歯のない初夏
山頭火さんの日記には、過去にも何度か、歯が抜けたという記述があります。
この後も、亡くなる年まで、歯に関する句や日記の記述がありますから、最後はほとんど失っていたんじゃないでしょうか。
ずいぶん昔の話ですが、私も今頃の季節に、歯を失ったことがあります。
私の場合は自然に抜けたわけではなく、親知らずを歯科医院で抜いてもらいました。
歯が抜けると、歯茎にぽっかり穴が空いて、なんか気味が悪いんですよね。
ずっと気になり、舌でそのぬるっとする場所に、触れ続けていました。
あと、なんともいえない、気分のもやもやが起こります。
ちょっと血の味もしますしね。
歯を抜いた後の、口の中。
なにか熱がこもっているような、もわっとしたした、重い感じがします。
今考えると、ただ炎症を起こしているだけなんでしょうがね。
なぜ、今頃の季節だったと憶えているかというと、その気味悪い感触やら、重い感じを鎮めるには、アイスクリームだと思って、アイスを探したからで、アイスにたどりつくまで、結構、時間がかかったせいです。
別に、人里離れた山の中にある歯科医院で歯を抜いた訳ではありません。
当時は、今のようにコンビニがありませんから、年中いつでもどこでも、アイスが食べられるというわけではありませんでした。
駄菓子屋や小さなお店の前には、冷凍ショーケースが置かれています。
そこに被していた覆いを外して、アイスを置くようになるのが、今頃の季節からでした。
ゴールデンウイークあたりから梅雨にかけてですかね。
アイスクリームは、いまよりずっと季節感がある食べ物でした。
アイスクリーム、というより、アイスキャンディーですね、その時食べたのは。
氷菓に区別される、棒についた、アイスです。
そのソーダ味で、口の中の熱や、もやもやした気分がスッキリしたのか、初夏の爽やかな青空に気分が晴れたのか。
帰りには鼻歌のひとつも歌っていた気がします。
山頭火さんも、梅雨の合間、初夏の青空の下、歯は抜けたものの、案外スッキリしていたのかもしれませんね。
なにか失いましたか、そうですか。
空は青いからソーダ味ですかね、ちがいますか。
空の青さが目に沁みますか、そうですか。