山頭火さん、今は旅の途中ではなく、庵を結び『其中庵』と名付け住んでいます。
生まれ故郷のほど近く、山口県小郡(現在山口市)です。
昭和8年2月10日の一句、
月へいつまでも口笛ふいてゐる
この日は、月の句を五つ詠んでいます。よほどいい月だったとみえます。
調べました。昭和8年2月10日、満月です。澄んだ冬の夜空に満月です。
『月へいつまでも』とありますから、ほぼ満月頃と見当はつきますね。三日月だと日没の後、二時間ぐらいですぐ沈みますから、月に口笛を吹いていられるのは二時間ぐらいです。後は夜空に吹くことになります。満月ならオールでいけます。
ただ、『夜に口笛を吹いてはならない』という言い習わしが昔からあります。蛇が出る、なんて言われています。色々と言われがある様ですが、なるべく禁止したい行為なのだと思います。
山頭火さん、そういう事気にしないタイプではありそうですが。この時代だと結構タブーな事だったんじゃ無いでしょうかね。
夜通し口笛を吹いていた山頭火さん。
いつまでも吹いていたという事は、楽しくてそうし続けたとしても、淋しくてそうし続けたとしても、そこには山頭火さんの眠れぬ夜があったということです。
興奮醒めやらぬまま眠らなかったとしても、あれこれ思い悩み眠れなかったとしても、仕事が終わらず眠れなくても、眠らない事の根っこには不安があると私は思っています。人は不安を抱えると、眠ることがとても難しくなるのです。
この夜、山頭火さんの心の中にも、不安という月がぽっかり浮かんでいたのかもしれません。
その口笛は、山頭火さんにとって、オオカミの遠吠えの様なものだったのかも。
いつまでも口笛吹きましたか。そうですか。どんなメロディーですか、流行りの曲ですか、幼い頃聞いた歌ですか。
そいう言えば、蛇でましたか。出ませんか。冬は蛇、冬眠してますものね、そうですか。